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ストーリー

対話で考えるキックベース(3)

Aは友人のBと、その2人より年の若いCと散歩をしています。Aは、キックベースのことをよく考えています。Bもそれと同じくらいキックベースのことを考えています。Cはキックベースが好きです。

(2)はこちら

C:あ、あの白い雲、おもしろいかたちしてませんか?

 

B:どれだ?でも、雲は雲だよ、みんな雪の粉だってどこかの本で読んだ。

 

A:雪の粉かはわからないけど、どんな雲でも何かに見えるのは不思議だね。

 

B:キックベースに見える雲なんてものもあるんだろうな。

 

C:おふたりは、いつもキックベースのことを考えているから、そういう雲もあるんでしょうね。

 

B:そうかもしれないな。あ、そうだ、Aがさっきゴロ限定キックベースって言ったよな。コートを小さくしてタッチだけでアウトにできるって奴だ。似たようなのをキャンプ場でやったことがある。バランスボールより一回り小さいくらいのやわらかいボールで、遠くには飛ばないから外野がいない。ボールはよく跳ねるからキャッチもよくあるんだが、みんな塁に出やすくするためにキャッチでアウトにはせず、タッチだけでアウトにできるってルールにしたんだ。1チーム4,5人でやってて、すごい盛り上がって時間があっという間に過ぎた。

 

A:何人でもできる、というのはまた野球との違いかもしれないね。サッカーでいうところのフットサルが、より連続的に存在しているのかもしれない。キャンプ場でのそれは、紛うことなきキックベースだと思う。

 

B:ここで話は終わらないんだ。キャンプ場にはキックベースをしに行ったわけじゃない。それで途中から、キックベースが緩やかにバレーボールになっていったんだ。

 

C:どういうことですか?

 

B:タッチだけがアウトの方法だから、ボールをランナーに素早く近づけるために、打ちあがったボールをキャッチしないでそのままランナーが走る方向にいる守備の仲間にパスするようになったんだよ。そんな真面目にやってるわけでもないから雑なパスが飛んでくることもあって、それを一人がうまくレシーブの要領で処理したりして…みたいなこのルールならではの好プレーが頻発した。さらに、ピッチャーが投げるボールが腰より高い位置に来ることもあって、あるときキッカーが手で打って走り始めたんだ。そのあたりから、バレーボールになっていった。キックベースに満足して、シームレスにバレーボールに変わっていったんだよな。当時は何も考えずみんな笑ってたけど、今思うと不思議な体験だ。

 

A:バレーボールとの限界事例は興味深いですね。初めて聞きました。Cさん、これもキックベースの一つのかたちだとおもいますか?

 

C:うーん、あたしも、普通のキックベースでのことですけど、打ちあがったボールをレシーブしてからキャッチしたプレーは見たことがあります。でも、キッカーが手で打つことは見たことがないですね…。公式ルールではどうだったんでしたっけ。

 

A:7.01条で「すべてのキックは脚を使い、腰より低い位置で行わなければならない」とされていますね。

 

B:公式ルールはひとつの参照軸にはなるだろうが、そこに書いてあることに反するからといってキックベースじゃなくなるわけじゃない。昔誰かがいったように、「あれも、それも、キックベース」だろう。

 

C:キックベースは、名前からして「キック」つまり、蹴ることが想定されているのではないでしょうか。

 

A:公式ルールに頼らない場合、そのスポーツの名前そのものから出発するのは大事な視点でそれなりに説得的だと思います。もう少し想像しましょう。例えば、キックベースの大会があって、そこでキッカーがいきなり手で打ち始めた時、ふたりがもし会場にいたらどう思うでしょうか。

 

C:ルール違反、でしょうか。

 

B:ルールどうこうの前に、俺は面食らうだろうな、そして、なぜだか知らないが、「不適切」だ、と感じるような気がする、それはおそらく単にルール違反だから、ということではなく。

 

A:では、その辺の公園で子どもたちがキックベースをやっていて、子どものひとりが同じことをやり始めたら?

 

B:俺が子どもだったとしても同じように感じるかもしれない。キャンプ場では、ただ楽しんでいただけなんだけど、確かに俺の友だちが手で打ったあたりからなんとなく、もうバレーボールやろうぜー、って雰囲気になったんだよな。まさに、キックベースとして「不適切」とどこかでみんな感じたのかもしれん。

 

A:キックベースの境界線が一部見えてきましたね。

 

C:そういえば、あたしの友だちが愛犬家で、ドッグキックベースなるものの存在を知りました。飼い主が蹴って、犬が捕ってから飼い主のほうに走ってタッチするんだそうです。あたしが、その子に攻守交替しないの?って聞いたら、「犬はボールを蹴らないの、顔でドリブルだってするんだから」と笑ってました。キックベースには、キッカーが「蹴る」という動作が不可欠であるのかもしれません。

 

B:ああ、キックベースはキッカーが「蹴る」スポーツである、ということは言えるだろう。その意味で公式ルール7.01条は単なるルール以上の意味を持ってるわけだ。

 

A:キックベースの「キック」については、わかってきたようだね。そうだとすると、「ベース」にも、なにか大事な意味があるのかもしれない。

 

C:名前の話でいうと、私、小さいころ住んでいたアメリカではじめてキックベースを知ったんですが、アメリカではみんな「Kickball」って呼んでました!

 

B:「ベース」って、塁に置いてあるあれのことを言ってるだけじゃないのか…?それに、キックボールだって?なんだか雲の色が濁ってきたぞ…